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「ちゃんとした会社」は、取引先から選ばれる

取引先から選ばれる会社とは何か

新しい取引先を探すとき、企業は何を見ているのでしょうか。価格の安さでしょうか。技術力でしょうか。それとも、単に営業担当者の熱意でしょうか。

今回紹介する研究は、この重要な問いに答えます。企業は「ちゃんと管理されている会社」を選んでいる。納期を守り、品質を安定させ、トラブルに対応できる会社ほど、取引網を広げ、震災のようなショックからも立ち直りやすいのです。

産業経済学を専門とする一橋大学教授の大山睦氏と、企業金融を専門とする長崎大学助教の今仁裕輔氏によるImani and Ohyama(JJIE 2026)は、この直感を日本企業について大規模データで実証した研究です。よい経営は、会社の中を整えるだけでなく、社外から見たときの外向きの強さにもあらわれる。本記事ではその輪郭を追います。

データが示した3つの発見

これから繰り返し登場する経営スコアは、企業の経営実践を16項目で点数化した値です(MOPSという国際的な調査によるもの。0〜1のスケールで、1に近いほど運営が体系化されていることを示します。測定の詳細は本記事の後半で説明します)。

本研究の発見は、大きく3つあります。

(1) 経営の質が高い会社ほど、取引先が多い。 経営スコアが低位(第1四分位)から高位(第3四分位)に上がると、取引先数は約16%(およそ+9社)増えます(図1上段)。これは観察できる企業の違いを徹底的に統制したうえでの効果で、生産性とは独立した経路です。

図1:経営スコアと生産性の引き上げが取引先数に与える効果。上段が経営スコア(OLSで+16%、+9社)、下段が生産性TFP(同+69%、+39社)。共変量を統制したOLS推定値に基づく。出典:Imani and Ohyama (2026), Table 3 col. (3) より概念図。

(2) 経営の質が高い会社は、震災ショックからの復元が速い。 震災で取引先を失った企業ほど、その穴を新規取引で埋め直そうとします。埋め直しの度合いは経営スコアに比例して大きくなっており、経営スコア低位(Q1)の会社で失った取引先1社あたり約17%、高位(Q3)の会社で約29%の追加的な新規開拓が認められました。差はおよそ12ポイント。経営スコアの違いがそのまま復元の差として現れたかたちです(図2)。

図2:震災後の取引先復元における経営スコアの効果。失った取引先1社あたりの新規開拓の追加効果(IV 推定)が、経営スコア低位(Q1)で約17%、高位(Q3)で約29%。出典:Imani and Ohyama (2026), Table 5B col. (2)。交互作用項「失った取引先 × 経営スコア」の係数 0.477 に、Q1(≈0.36)・Q3(≈0.61)を掛けた値。

震災という偶然が突きつけた問いに、データはこう答えました。「経営の質が高い会社は、危機のなかでも代わりを見つけられる」、と。

(3) 取引網は広いだけでなく、入れ替わりも多い。 経営の質が高い会社は新規取引を多く獲得しつつ、既存取引を多く解消してもいます。差し引きで網は純増しつつ、入れ替えを通じて鮮度が保たれていきます。停滞しないネットワーク。これが外向きの強さを支えているわけです。

なぜそれを「因果」と言えそうなのか

3つの発見、とくに(1)(2)は、慎重な因果推論のうえに乗っています。少しだけ研究の裏側を覗いてみます。

何を、どう測ったか

著者らが使ったのは、3つのデータの組み合わせです(表1)。中心は、経済産業研究所(RIETI)が2017年に実施したJP MOPS(Japan Management and Organizational Practices Survey)。BloomとVan Reenenが米英で先鞭をつけたMOPS(Bloom and Van Reenen, 2007)の日本版で、製造業約11,000事業所の経営実践を点数化したものです(成果の概観はKambayashi, Ohyama and Hori, 2021)。

MOPSの点数化はシンプルです。各事業所に、目標設定・進捗管理・KPI監視・人事評価など16項目のマネジメント・プラクティスを尋ね、それぞれの回答を「ベストプラクティスにどれだけ近いか」で0〜1の数値に変換します。事業所の経営スコアは16項目の平均値で、1に近いほど運営が体系化・標準化されていることを意味します。

ここに、企業間の取引関係を網羅的に追える帝国データバンクCOSMOS2(約140万社)を接合します。「経営スコア×生産性×取引相手のリスト」を一本のデータで持つ、世界的にも稀な分析環境が整いました。

表1:本研究が組み合わせた3つのデータ

データ内容規模
JP MOPS(RIETI)経営実践16項目の調査製造業11,405事業所
工業統計調査生産性TFPの算出同上
TDB COSMOS2企業間の取引関係約140万社

どうやって因果を取り出したか

「経営の質が高い会社は取引先が多い」だけならば、それは相関にとどまります。逆向きの説明、つまり「取引先が多いから利益が出て、利益が出ているから経営に投資できる」も、同じくらい成り立ってしまいます。著者らはこの同時決定を断ち切るために、三段構えで因果に迫ります。

第一段:観察できる違いを徹底的に統制する。 生産性、企業規模、業歴、立地、業種、需要のばらつき。取引先数に効きそうな要素を片端から回帰式に入れたうえで、経営スコアの係数が残るかどうかを確かめます。残りました(前掲図1)。

第二段:パネルで「同じ会社の中の変化」を追う。 観察できない企業特性、たとえば社風や創業者の人脈などは、最初の方法では統制できていません。そこで2010年と2015年の二時点を使い、固定効果推定で時間不変の企業特性をすべて差し引きます。同じ会社のなかで経営スコアが上がった年に取引先が増えているか、というのが問いです。効果はやや小さくなりますが、依然として有意に正、という答えでした。

第三段:自然実験を借りる。 それでも残るのが「取引先が増えたから経営が良くなったのでは」という逆因果の可能性です。これを断つために著者らが用いたのが、東日本大震災でした。被災地に取引先を持っていた企業は、自分の経営努力とは関係なく取引相手を失います。その穴をどれだけ早く新規取引で埋め直したかを、被災地への距離(Tier 0/Tier 1)を操作変数として2段階最小二乗法(IV)で推定する。3つ目の発見(および図2の数字)は、この推定から得られたものです。

取引先が見ているのは、人事制度ではなく「ちゃんと納める力」だった

本研究の発見のなかで、特に興味を引くのが次の点です。

経営スコアは16項目から構成されますが、著者らはこれを2つに分解します。生産管理スコア(スケジュール・在庫・KPI監視など)と、人事管理スコア(評価・昇進・賞与・解雇など)です。

結果ははっきりしていました。取引網に効くのは生産管理スコアだけで、人事管理スコアはほぼ効果がありません。

「経営の質」と言われると、私たちはまず人事制度や評価制度を思い浮かべがちです。けれども取引先から見られているのは、そこではない。納期を守る力、品質を一定に保つ力、トラブルに即応する力。要するにオペレーションの安定性であり、これが新しい取引相手を引き寄せる「信頼」の中核だ、と著者らは解釈しています。

不確実性が高い時期ほど、企業は新しい取引相手を作らない傾向があります(リスクを取りたがらないからです)。けれども経営の質はこの萎縮を和らげます。「あの会社なら大丈夫」という信頼が、危機のなかでも代替先を見つけることを可能にする、というわけです。

生産性だけでは見えない、企業の強さ

経済学では長らく、企業の異質性、つまり似たような会社のなかにも勝ち組と負け組が出る理由を、主に生産性(TFP)の差で説明してきました。本研究はそこに、もう一つの軸を加えます。

経営の質    取引網の広さと柔軟性    成長\text{経営の質} \;\longrightarrow\; \text{取引網の広さと柔軟性} \;\longrightarrow\; \text{成長}

経営の質は、社内の効率を高めるだけでなく、「他社にとっての価値」を高めることでも成長を支えています。規模としては、経営スコア引き上げによる+9社(+16%)は、生産性引き上げによる+39社(+69%)には及びません(前掲図1)。けれども、生産性とは独立した経路として効いている。ここに新しさがあります。

サプライチェーン研究、企業ダイナミクスの理論、産業政策。いずれの領域にも示唆を与えてくれる研究です。

政策・中小企業支援への示唆

中小企業支援というと、設備投資、補助金、DX推進、販路開拓といった施策が思い浮かびます。けれども本研究は、その手前にある「日々の管理の型」を整えること自体が、販路を広げる力になりうることを示しています。

納期を守る。在庫を把握する。問題が起きたときにすぐ対応する。そうした地味な仕組みが、取引先から見れば「この会社なら任せられる」という信号になっていきます。

サプライチェーンの強靭化という政策キーワードも、ここから読み直せます。経営の質を底上げする支援は、平時の取引網を広げるだけでなく、ショックが起きたときの耐久力そのものを高めることになります。

企業の「強さ」を測る指標として、生産性に加えて「取引網を作る力」を視野に入れる必要があるのでしょう。

経営とは、社内の規律であると同時に、外部世界に対する信頼の表明でもあるのでしょう。本研究を読み終えて残るのは、そんな手触りです。

本記事に登場するキーワード

  • 取引先ネットワーク/取引網(transaction network, trading network, firm-to-firm network):企業がどの会社から仕入れ、どの会社に販売しているかという企業間取引のつながりの全体像。サプライチェーン研究や、ショックの波及・企業ダイナミクスの分析でカギになる単位です。本研究では「広さ(取引先の数)」と「柔軟性(取引先の入れ替わりや復元の速さ)」の2つの側面を測っています。
  • マネジメント・プラクティス(management practices):目標設定、進捗管理、KPI監視、人事評価など、企業の日常的な運営手続きの総称。MOPSはこの16項目を点数化したものです。
  • MOPS(Management and Organizational Practices Survey):企業のマネジメント・プラクティスを16項目で点数化する世界共通の調査ツール。Bloomらが米国センサス局と組んで発展させました。
  • JP MOPS(Japan Management and Organizational Practices Survey):MOPSの日本版(2017年実施)。RIETIのプロジェクトとして設計され、製造業約11,000事業所が回答しています。
  • 経営スコア(management score):MOPS/JP MOPS による16項目の点数の平均値(0〜1)。1に近いほど、企業の運営手続きが体系化・標準化されていることを意味します。本研究では、このスコアを「経営の質」の指標として用いています。
  • 工業統計調査(Census of Manufactures):経済産業省が長年実施してきた製造業の基幹統計(現在は経済構造実態調査に統合)。事業所単位で生産額・従業者数・原材料費などを把握できます。本研究では生産性(TFP)の算出に用いられました。
  • 帝国データバンク COSMOS2(Teikoku Databank, COSMOS2):帝国データバンク(TDB)が構築する企業情報データベース。国内約140万社をカバーし、企業間の取引関係(誰が誰の取引先か)まで網羅的に追えます。本研究の「取引網」データの源です。
  • 構造化された経営(structured management):スケジュール管理、KPI監視、人事評価など、組織運営の手続きが体系化・標準化されている度合い。
  • 全要素生産性(total factor productivity, TFP):投入物(労働・資本など)の量で説明しきれない、企業の生産技術の差を表す指標。
  • 異質性(heterogeneity):同じ業種・規模でも企業ごとにパフォーマンスがばらつく性質。経済学では、その源泉を解明する研究が長らく続けられてきました。
  • 固定効果推定(fixed effects estimation):時間によって変化しない企業の特性をすべて差し引いて、変化部分だけで因果を推定する手法。
  • 自然実験(natural experiment):研究者の介入によらず、現実世界で偶然起きた出来事を「実験」に見立てて因果関係を推定するアプローチ。災害、政策の地域差や時期差などがよく使われます。本研究は東日本大震災を自然実験として利用しています。
  • 操作変数法/2段階最小二乗法(instrumental variables, IV / two-stage least squares, 2SLS):直接観察できない要因の因果効果を、外から偶然働く別の変数(操作変数)を経由して推定する手法。本研究では東日本大震災を操作変数として用いています。

データ:JP MOPS(2017、RIETI)/工業統計調査/TDB COSMOS2

手法:観察される要因の統制、固定効果推定、東日本大震災を外生ショックとして用いた2段階最小二乗法(IV)

論文:Imani, Y., and Ohyama, A. (2026). Management practices and transaction relationships. Journal of the Japanese and International Economies, 80, 101426. doi.org/10.1016/j.jjie.2026.101426

取り上げた論文(Economedia の論文紹介ページ)

経営慣行と取引関係の形成に関する研究