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いじめ被害が小学生の学力と友だち関係に与える影響

いじめ被害は、学力だけでなく友だち関係にも影響する

いじめの被害は、成績を下げる。これは多くの人が想像しやすい結果かもしれません。けれども、この研究が示しているのはそれだけではありません。いじめ被害は、学校への意欲や友だち関係にも影響していました。なかでも 友だち関係への影響は、学力への影響より大きく 推定されています。

教育経済学を専門とする東京大学社会科学研究所教授の 田中隆一 氏と、NIRA総合研究開発機構の 井上敦 氏による Inoue and Tanaka(JWE 2026) は、日本のある自治体で集めた小学校4〜6年生のパネルデータを使って、いじめ被害が「学力」「学校への意欲」「友だち関係」の3つの側面にどう影響するかを同時に推定した研究です。

舞台は、2014〜2016年度に小学4年生から6年生だったコホート、約1,000人。年に1回の学力テストと、年2回の質問紙調査(Questionnaire-Utilities、以下 QU)を組み合わせて、3年間の変化を追っています。

「友だち関係」とは何を測っているのか

ここで言う「友だち関係」は、単に友だちの人数ではありません。クラスメイトが自分に親切にしてくれるか、自分を仲間として見てくれるか、失敗したときに励ましてくれるか、自分の考えを話したときに馬鹿にせず聞いてくれるか。9項目の質問への回答を合計して測っています。

同じく「学校への意欲」も、テストの点数ではなく、わからなかったことが分かるようになったときの喜び、授業で意見を言いたい気持ち、よい成績を取ろうと努力する姿勢、といった3項目の合計値です。

「いじめ被害」も具体的です。いやな言葉を言われる、暴力をふるわれる、からかわれる、仲間外れにされる、グループ活動でうまくいかない、休み時間に一人でいる。これら6項目について、それぞれ「あてはまる/あてはまらない」を4段階で答えてもらい、年2回(前期・後期)の合計スコアとして集計しています。

つまり、本研究の3つのアウトカムは、すべて 「子ども自身が教室の中でどう感じているか」 をすくい取った値です。これに、別途実施された学力テストを組み合わせて、客観的な成績と主観的な経験を、同じ子どものなかで結びつけて見ています。

いじめ被害は、3つの側面すべてを押し下げる

著者らの推定は明快です(図1)。

図1:いじめ被害が1標準偏差(SD)増加することによる効果(SD単位)。出典:Inoue and Tanaka (2026), Tables 4, 5, 6。付加価値(value-added)モデル+学級固定効果による推定値。

いじめ被害の年間スコアが1標準偏差(SD)増えると、翌年度の各アウトカムは次のように動きます。

  • 学力(国語+数学のテストの伸び):約-0.03 〜 -0.05 SD
  • 学校への意欲:約-0.11 SD
  • 友だち関係:約-0.23 SD

3つすべてに統計的に有意な負の影響が確認されました。目を引くのは、友だち関係への影響が学力への影響より大きい 点です。学力への影響は全体としては抑えられている一方で、子どもが教室の中で受け入れられ、関係を築けるかという面は、相対的に大きく削られています。

ここでいう「いじめ被害が1標準偏差増える」とは、単に一度いやなことを言われた、という程度ではありません。論文の説明によれば、QU の合計スコア(6項目×年2回=12項目、各4段階、12〜48点)の平均は約19点で、標準偏差は約6.85点。1 SD の増加とは、合計スコアが約19点から約26点に上がる変化に相当します。教室での不快な言葉、からかい、孤立、仲間外れの経験が、複数の場面で少しずつ強まるような変化だと考えるとよいでしょう。

どうやって「いじめの影響」を推定したのか

「いじめられた子は成績も低い」という関係を見ただけでは、何が原因で何が結果かはまだわかりません。もともと成績が低かった子・友だち関係が薄かった子の方が先にいじめを受けやすい、という逆向きの関係もあり得るからです。実際、本研究も、いじめの被害は学力の弱い子・友だちが少ない子・女子で多いことを別途確認しています。

この問題に、著者らは2つの工夫で対処しました。

第一に、同じようなスタート地点の子ども同士を比べる。 各アウトカムについて、年度初めの初期値(学力テストは4月、QU は5〜6月に実施)を統計的に細かく考慮します。たとえば学力の推定では年度初めの学力、友だち関係の推定では年度初めの友だち関係を、それぞれ5次の多項式として回帰式に入れる、というかたちです。ほぼ同じ初期値だった子どものなかで、その後1年間のいじめ被害がアウトカムの伸びにどう関連するかを見るわけです。教育経済学では 付加価値(value-added)モデル と呼ばれる、伸びだけを取り出す手法です。

第二に、同じ学級の中で比べる。 担任の先生の力量、学校・学級の雰囲気、いじめが起きやすい風土といった、学級まるごとに共通する違いを 学級固定効果 と呼ばれるダミー変数で全部吸収します。残るのは、同じ学級のなかでいじめ被害の度合いが違う子どもの間のばらつきだけになります。

加えて、観察できない要因がどれくらいの強さで働けば結果がひっくり返るかを Oster (2019) の手法でチェックしています。国語・理科・学校エンゲージメントでは頑健性の指標 δ が基準(δ > 1)を上回りますが、総合学力・算数・友だち関係では δ が1を少し下回ります。未観察要因への頑健性には一定の留保がある、というのが正確な読み方です。

もちろん、これはランダム化実験ではありません。家庭環境や本人の特性など、完全には観察できない要因が残る可能性はあります。したがって本研究の結果は、「いじめの純粋な因果効果を完全に測った」と読むよりも、「前年の状態や学級の違いを丁寧に取り除いても、なお一貫して悪影響が確認される」 と読むのが適切です。

いじめは当事者だけの問題ではない

本研究のもう一つの興味深い結果は、いじめが 学級全体の学習環境 にも関わってくることです。

著者らは、自分自身のいじめ被害を統制したうえで、クラスメイト全員のいじめ被害の平均(自分を除く)も変数として加えた回帰を行いました。経済学で ピア効果、つまり仲間の特性が自分の成果に与える影響、と呼ばれる分析です。すると、自分自身のいじめ被害の程度を一定にしても、クラスメイトのいじめ被害が高い学級では、翌年度の学力(国語+数学)が約0.15 SD 低下することが確認されました(Table 8、10%水準で有意)。

いじめは、加害者と被害者の間だけで閉じた問題ではない、ということです。いじめ被害が多い学級では、直接いじめられていない子どもにとっても、安心して学ぶ環境が損なわれる可能性があります。経済学の言葉でいえば、いじめには周囲にも悪影響が及ぶ 「負の外部性」(ある行動の影響が、当事者の外側にまで広がる現象)があると考えられます。

教室というのは、一人ひとりが自分の学力を伸ばす場であると同時に、お互いの環境を作り合う場でもある。一人の子どもの困難は、その子だけの問題では終わらない、ということです。

いじめ予防は、人的資本への投資でもある

3つの効果サイズを、教育政策で長らく議論されてきた 学級規模の縮小 と並べてみると、その大きさが感覚的にわかります(図2)。

図2:いじめ被害1 SD 削減と、学級規模1人縮小の学力効果の比較。学級規模効果は赤林・中村 (2014)、北條 (2013)、北條・妹尾 (2019)、田中 (2020) の日本データに基づく既存研究から。出典:Inoue and Tanaka (2026), §8.1.3。

日本の小中学校を対象とした研究を総合すると、学級を1人小さくすることで学力が 0.006 〜 0.018 SD 上がるとされています。これと比較すると、いじめ被害を1 SD 減らすことは、学級規模を約2〜5人縮小するのと同等の学力効果 を持つ計算になります。

しかも、いじめ被害が減れば、友だち関係(0.23 SD)や学校への意欲(0.11 SD)への影響も同時に得られます。学級規模の縮小には大きな財政負担が伴いますが、いじめ予防はそれと並ぶ、あるいは超える 人的資本・社会関係資本への投資 になりうると本研究は示しています。

いじめ予防というと、心のケアや道徳の問題として語られがちです。けれども、この研究を読むと、それは同時に、子どもたち一人ひとりが将来にわたって育てていく学力・社会性・関係構築力への投資でもある、と言えそうです。

子どもがどれだけ安心して教室にいられるか。それは、テストの点や進学率といった目に見える数字の手前にある、もっと根本的な条件なのかもしれません。

本記事に登場するキーワード

  • いじめ被害(bullying victimization):本研究では「いやな言葉」「暴力」「からかい」「仲間外れ」「グループ活動の困難」「休み時間の孤立」など6項目への回答を合計して測定。年2回の調査を合算して年次スコアとし、標準化して使用しています。
  • 付加価値モデル(value-added model):年度初めの成績(関連するアウトカムの初期値)を細かく考慮し、その後1年間の「成績の伸び」に対する説明変数の効果を推定するアプローチ。教育経済学で広く使われます。
  • 学級固定効果(class-fixed effect):同じ学級に共通する観察できない要因(教員の質、学校の雰囲気など)を全部差し引き、学級内のばらつきだけで効果を推定する手法。
  • ピア効果(peer effect):クラスメイトの特性が、自分の成果に与える影響。本研究では、クラスメイトの平均いじめ被害が、自分の翌年学力に効くことを示しています。
  • 負の外部性(negative externality):ある行動の影響が、当事者の外側にまで広がる現象。本研究の文脈では、特定の子どもへのいじめが、教室の他の子どもたちの学習環境にも影響することを指します。
  • 社会関係資本(social capital):人と人とのつながりが生み出す資源。教育の文脈では、友だち関係や教員との関係などが学業成果や意欲を支えるとされます(Coleman, 1988)。
  • 標準偏差(standard deviation, SD):分布のばらつきを表す指標。「1 SD 増加」とは、平均的な値から1 SD ぶん高い水準への変化を意味し、効果サイズの単位として広く使われます。
  • Oster (2019) の係数安定性チェック:観察できない要因による選別バイアスが、観察できる要因と同じ方向で何倍働けば推定係数がゼロになるかを計算する手法。一定の基準を超えれば「観察できない要因に対しても頑健」と判断されます。
  • QU(Questionnaire-Utilities):学校生活への満足度・対人関係・学習意欲・いじめ経験などを把握するために日本の学校で広く用いられている診断的質問紙。原典は 河村茂雄・田上不二夫(1997)「いじめ被害・学級不適応児童発見尺度の作成」(カウンセリング研究 30(2), 112–120)。

データ:日本のある自治体の小学校4〜6年生(2014〜2016年度)のパネルデータ。約1,000人 × 3学年 × 30〜38学級。年次の学力テスト(国語・算数・理科・社会)と、年2回の QU 調査(school engagement、friendship、bullying victimization の各サブスケールを含む)。

手法:付加価値モデル+学級固定効果。各アウトカムの年度初め初期値を5次多項式で考慮。標準誤差は学級レベルでクラスター化。ロバストネスとして Oster (2019) 法による頑健性チェック、ピア効果分析、二要因 CFA などによる測定指標の頑健性確認。

論文:Inoue, A., and Tanaka, R. (2026). The effects of school bullying victimization on cognitive, school engagement, and friendship outcomes. Japan & The World Economy, 77, 101342. doi.org/10.1016/j.japwor.2025.101342

取り上げた論文(Economedia の論文紹介ページ)

いじめ被害が認知能力や学校への関与、友情に与える影響