Why do the elderly save? using health shocks to uncover bequest motives
Tetsuya Kaji, Elena Manresa
本研究は、高齢者の貯蓄行動を再検討し、特に遺贈動機に焦点を当てています。このテーマは、高齢者の経済的行動を理解する上で重要であり、将来的な政策形成に影響を与える可能性があります。著者らは、AHEADデータを用いて、Kaji et al.(2023)の逆構造推定フレームワークを適用し、シミュレーション法(SMM)と最尤推定を組み合わせた手法を採用しました。この手法では、ニューラルネットワークを用いた柔軟な識別器がデータの最も情報的な特徴を選択します。モデルにはDe Nardi et al.(2010)の枠組みを採用し、性別や健康履歴を考慮することで、遺贈動機の特定精度が向上することを示しました。結果として、遺贈動機は高齢者の貯蓄の13%から19%を説明し、特に富裕層だけでなく全ての恒常所得五分位にわたって影響を及ぼすことが明らかになりました。この研究は、健康に関連する生存期待の異質性が遺贈動機と予防的貯蓄動機を区別するための重要な要因であることを示唆しています。
Disaster exposure in childhood and adult noncognitive skill: evidence from the Philippines
June Patrick Roque Bulaon, Masahiro Shoji
本研究は、幼少期に自然災害を経験することが成人の成長マインドセットに与える影響を検討しています。成長マインドセットとは、知能が発展可能であるという信念であり、これは個人の社会経済的成果に重要な役割を果たすとされています。しかし、これらの信念がどのように形成されるかについての研究は限られています。著者らはフィリピンにおける熱帯サイクロンの発生時期と経路の外生的変動を利用し、幼少期の災害経験と成人期の成長マインドセットとの関連を分析しました。データはフィリピン国内の個人を対象とし、幼少期の栄養状態や健康状態がこの関連性にどのように寄与するかも考察されています。結果として、妊娠中および幼少期に多くの熱帯サイクロンにさらされた場合、成人期において知能が固定的であるという信念が強まることが示されました。この関連は、幼少期の栄養や健康の悪化によって媒介される可能性があることも示唆されています。これらの結果は、災害や気候政策において、母子のケアを優先する重要性を示しています。
Medical expenditures over the life-cycle: persistent risks and insurance
Taiyo Fukai, Hidehiko Ichimura, Sagiri Kitao ほか
本研究は、単身世帯と既婚世帯を対象にしたライフサイクルモデルを構築し、日本の国民健康保険制度の役割を評価します。医療支出リスクを分析するために、日本全国の健康保険請求に関する行政データを使用し、年齢や性別によって変動する確率過程でモデルをキャリブレーションします。この研究は、健康保険改革の経済的および福祉的影響が世帯の所得水準や福祉制度の寛容さに依存することを明らかにします。具体的には、健康保険がない場合、高所得世帯は自己保険に依存し、総貯蓄が大幅に増加します。一方、低所得世帯、特に低技能の単身男性や女性は貯蓄を減少させ、多くが福祉受給者となります。また、高齢者の自己負担率を引き上げると、世帯貯蓄は増加しますが、低所得世帯の資産が減少し、福祉受給者の増加を招く結果となります。これらの結果は、医療保険制度の設計や改革における重要な示唆を提供します。
Peer effects on influenza vaccination: Evidence from a city's administrative data in Japan
Naomi Miyazato, Yoko Ibuka, Jun-ichi Itaya
本研究は、インフルエンザワクチン接種における周囲の接種状況が個人の接種行動に与える影響を、行政データを用いて実証的に分析することを目的としています。ワクチン接種は公共財であるため、フリーライダーのインセンティブから負のピア効果が予想される中、著者らは日本のある都市に住む高齢者全体を対象としたデータを使用しています。推定戦略として、固定効果分析と遅延従属変数を用い、さらに同居者の喪失が接種行動に与える影響とコミュニティのピア効果との相互作用を検討しています。分析の結果、コミュニティのワクチン接種率が高いほど、個人の接種率が上昇することが確認され、正のピア効果が示されました。これにより、地域社会の接種率向上が個人の接種行動を促進する可能性が示唆され、公共政策におけるワクチン接種促進の重要性が強調されます。
Does free cancer screening make a difference? Evidence from the effects of a free-coupon program in Japan
Meng Zhao
本研究は、日本における無料がん検診クーポンプログラムが、がん検診の受診率やメンタルヘルスに与える影響を分析しています。高齢化が進む中で、がんは労働生産性や医療費に重大な影響を及ぼすため、がん検診の重要性が増しています。しかし、がん検診の受診率は依然として低い地域が多く、メンタルヘルスへの影響についての理解が不足しています。著者らは、2007年から2013年までの日本の生活条件に関する総合調査データを用い、2009年に開始された無料クーポンプログラムの影響を利用して、受診率とメンタルヘルスへの影響を評価しました。プログラムにより、女性の乳がんおよび子宮頸がん検診の受診確率は約9~10%増加し、大腸がん検診の受診率は女性で約6%、男性で約3%増加しました。また、がん検診はメンタルヘルスや喫煙行動に対しても影響を与える可能性がありますが、その効果は一貫性がなく、全体としては弱いことが示されています。これにより、がん検診の普及がメンタルヘルスや健康行動に与える影響についてのさらなる研究が必要であることが示唆されます。
Accessing long-term care social insurance benefits in South Korea and its correlates
Joelle H. Fong, John Piggott
本研究は、韓国の長期介護(LTC)社会保険制度におけるサービス受給の需要要因を明らかにすることを目的としています。特に、普遍的な公的カバレッジの文脈において、誰がLTCサービスの利益を申請するのかを探求します。データは2014年から2018年の韓国老年縦断研究から取得され、対象は60歳以上の地域在住者です。研究では、身体的健康、認知的健康、精神的健康の多次元を考慮した推定モデルを用いています。主な結果として、機能的制約、抑うつ症状、中等度から重度の認知障害が、LTCサービスの需要と独立して正の関連を持つことが示されました。また、利益を申請する人々は、制度管理者への信頼が高く、雇用されたヘルパーからのケアを期待する傾向があります。逆に、家族からの非公式なケアを期待する高齢者は、正式なLTCの申請を行う可能性が低いことが分かりました。この負の関連は、子供や孫からのケア期待よりも配偶者からのケア期待によって強く影響されることが示唆されます。政策担当者は、高齢者の健康状態の多様性とケア期待の違いを考慮し、今後の公的LTC制度における利益請求の需要を推定する際にこれらの要因を認識する必要があります。
Cross-regional heterogeneity in health and economic outcomes during the COVID-19 pandemic: An analysis of Japan
Shotaro Beppu, Daisuke Fujii, Hiroyuki Kubota ほか
本研究は、COVID-19パンデミックにおける日本の各都道府県における健康とマクロ経済成果の地域差を分析することを目的としています。このテーマは、パンデミックが地域ごとに異なる影響を及ぼすことを理解する上で重要です。著者らは、推定されたマクロ疫学モデルを用い、各都道府県における健康と経済成果の間の限界代替率(MRS)を計算し、条件付きトレードオフ曲線を導出しました。対象とするデータは、日本の各都道府県における健康指標と経済指標であり、パンデミック期間中の変動を追跡しています。分析の結果、MRSには大きな地域差が存在することが明らかになり、条件付きトレードオフ曲線の位置と形状も都道府県ごとに異なることが示されました。これにより、地域ごとの政策対応の必要性が浮き彫りになり、健康と経済のバランスを考慮した政策立案の重要性が強調されます。