National Transfer Accounts (NTA) in Japan: 1984−2014
Taiyo Fukai, Setsuya Fukuda, Hidehiko Ichimura ほか
本研究は、日本における国家移転勘定(NTA)の統計を1984年から2014年まで一貫して計算するための標準化された手法を開発し、この手法を用いてNTAの3つのアカウントの進化を分析しました。この研究の重要性は、NTAを用いた議論のための一貫した基盤を提供することにあります。データは日本のNTAに基づき、対象期間は1984年から2014年までの30年間です。著者らは、消費成長率が2004年以降に最も遅かった年齢層(23〜39歳)を特定しました。この年齢層は、他の年齢層に比べて労働所得の成長が高かったにもかかわらず、公共移転負担が大きいために消費成長が鈍化したと分析しています。この結果は、日本における結婚率や出生率の低下の潜在的な原因について新たな視点を提供します。さらに、著者らはNTAの推定手法や枠組みの改善の可能性についても議論しています。
Unraveling the determinants of overemployment and underemployment among older workers in Japan: A machine learning approach
Meilian Zhang, Ting Yin, Emiko Usui ほか
本研究は、日本の高齢労働者における過剰雇用と不足雇用の要因を明らかにすることを目的としている。この問題は広く存在するが、特に高齢者に焦点を当てた研究は少ない。著者らは、機械学習手法を用いて、過剰雇用と不足雇用を引き起こす重要な要因を特定した。データは日本の高齢労働者を対象にしており、具体的なサンプル数や期間は示されていないが、経済状況や健康状態、家族の支援、職務の特性が過剰雇用に関連していることが示された。具体的には、経済状況が良好であること、健康状態が悪いこと、家族の支援が少ないこと、職務の特性が不利であることが過剰雇用のリスクを高める要因である。また、年齢、可処分所得が少ないこと、現在の労働時間が短いこと、雇用が一時的であること、仕事や給与に対する満足度が低いことが不足雇用の予測因子であることが明らかになった。さらに、K-meansクラスタリング分析により、過剰雇用と不足雇用のグループ内での労働時間のミスマッチの理由が多様であることが示された。著者らは、65歳以上の経済的ストレスを抱える労働者や、家族の支援が不足している女性労働者、十分な労働時間を確保できていない給与労働者に対して、労働促進政策の余地があることを指摘している。
The child allowance policy and household consumption behavior in Japan
Huihui Li, Minae Niki
本研究は、日本における子ども手当政策(CAP)が家計の消費支出に与える影響を検討しています。特に、これまであまり注目されてこなかった中学生の消費支出に焦点を当てることで、政策の実効性を明らかにすることが目的です。データは2010年から2012年の期間に収集され、CAPが中学生に拡大されたことを利用して、差分の差分法を用いた準実験的な研究デザインが採用されています。このアプローチにより、全家庭に共通する混乱変数を排除し、CAP改革の影響を特定することが可能となりました。主な結果としては、(1)可処分所得を制御した後、CAPの増加が流動性制約のある家庭において外食支出を増加させる一方で、子ども関連商品の支出には明確な影響が見られないこと、(2)CAPの恩恵を受ける中学生を持つ家庭では貯蓄行動に変化がないことが示されています。これらの結果は、CAP改革が消費に与える影響は小さいものの、子ども特有の消費を増加させる「ラベリング効果」は見られないことを示唆しています。
Is part-time employment an adjusting valve?: Business cycle analysis on the labor market in Japan by dual search and matching model
Daisuke Nakamura
本研究は、2002年第1四半期から2018年第3四半期までの日本の労働市場におけるパートタイム雇用の役割を、二部門競争的検索・マッチングモデルを用いて分析しています。この研究は、パートタイム雇用がフルタイム雇用に比べて生産性ショックに対して著しく高い変動性を示すことを明らかにしています。企業はパートタイム労働者の利用を、広範囲と集中的なマージンの両方で適応させる一方、フルタイム労働者の労働投入の変動は主に集中的なマージンによって説明されます。この結果は、パートタイム雇用が日本の労働市場における「雇用の調整弁」として機能していることを裏付けています。しかし、モデルは全体の雇用に対するパートタイム労働者の割合の変動を十分には説明できていません。GMM推定により、一般的な生産性ショックが賃金率や市場のタイトさの変動を適切に説明する一方で、パートタイム雇用のシェアの変動には不十分であることが示されています。これにより、賃金率や市場のタイトさを変えずにパートタイム雇用の変動を増幅するためのより洗練されたモデルの必要性が示唆されています。
The impact of a CSR committee on CSR performance
Katsuyuki Kubo, Ryo Sasaki
本研究は、企業の社会的責任(CSR)委員会の導入が企業のCSRパフォーマンスに与える影響を探求しています。CSRは企業の持続可能性において重要な役割を果たすため、CSR委員会の設置がどのように企業のCSR活動に寄与するかを明らかにすることは、企業経営や政策形成にとって重要です。データは2011年から2021年の間に上場している日本企業を対象に収集され、推定戦略として傾向スコアマッチングと差の差分法が用いられ、内生性の問題に対処しています。主な結果として、CSR委員会の導入はCSRパフォーマンスを有意に改善することが示されており、構造化された取り組みが持続可能性の達成において重要であることが支持されています。さらに、著者らは環境および社会スコアの詳細な要素がCSRパフォーマンスに与える影響を検討しており、CSR委員会がCSRパフォーマンスのさまざまな側面にどのように影響を与えるかについての詳細な理解を提供しています。
A nowcasting model of industrial production using alternative data and machine learning approaches
Kakuho Furukawa, Ryohei Hisano, Yukio Minoura ほか
本研究は、経済状況をリアルタイムで理解・評価するために、従来の統計データに加え「代替データ」を活用するトレンドに着目し、特に日本の製造業における産業生産指数(IIP)のナウキャストモデルを構築することを目的としています。この研究は、代替データとしてのモビリティデータと電力需要データを使用し、IIPの公式発表の1〜2ヶ月前に生産活動を予測することが可能です。また、機械学習技術を取り入れることで、従来の経済統計(IIP予測)と代替データに基づくナウキャスト値の混合比率を経済状況に応じて内生的に変更し、予測精度を向上させています。推定結果によれば、代替データに機械学習技術を適用することで、特にCOVID-19パンデミックの影響下においても高い精度で生産活動を予測できることが示されています。これにより、政策立案者は経済の変動に迅速に対応するための情報を得ることができ、従来の方法と比較して新たな視点を提供するものとなっています。
Does risk aversion affect individuals’ interests and actions in angel investing? Empirical evidence from Japan
Yuji Honjo, Kenta Ikeuchi, Hiroki Nakamura
本研究は、エンジェル投資における個人の関心と行動に対するリスク回避の影響を探求します。日本の一般投資に興味を持ち、実際に投資を行っている個人を対象とした独自の調査データを用いて、リスク回避と主観的時間割引がエンジェル投資と関連しているかを検討しました。個人のエンジェル投資に対する態度を「無関心」「関心のみ」「行動」の3つに分類し、リスク回避がエンジェル投資行動に与える限界効果を推定しました。結果として、リスク回避が高い個人はエンジェル投資に参加する可能性が低いことが明らかになりました。また、富裕層の個人はエンジェル投資に参加する傾向が強いことも確認されました。さらに、起業経験のある個人の中では、主観的時間割引がエンジェル投資行動と正の相関を持つことが示され、主観的時間割引が高い起業家ほどエンジェル投資に参加しやすいことが示唆されます。これにより、リスク回避や時間割引の観点からエンジェル投資を理解することが重要であることが示され、政策的な支援の必要性が浮き彫りとなります。
Impact of fiscal policies on the labor market with search friction: An estimated DSGE model for Japan
Zhenkun Lu, Keigo Kameda
本研究は、日本の労働市場における異質な財政政策の影響を、国の借金増加と経済の停滞という文脈で探求します。著者らは、労働市場の検索摩擦、段階的な賃金交渉、価格の硬直性、そして生産的な政府雇用を組み込んだ動的確率一般均衡(DSGE)モデルを開発しました。このモデルは、1985年から2019年までの日本のマクロ経済データを用いて推定され、政府雇用支出、直接政府支出、税の削減といった複数の財政政策が雇用に与える影響を比較します。分析の結果、政府部門の雇用を増加させることが失業率を有意に低下させ、長期的には失業率を0.4ポイント減少させる効果があることが示されました。さらに、全ての財政政策が雇用率の変動の23.96%に寄与し、その中でも政府雇用政策が8.55%を占めていることが明らかになりました。これにより、政府の雇用政策が労働市場における安定化効果を持ち、家庭の所得向上や民間部門の生産性向上を通じて民間雇用を促進する能力が強調されます。
Assessing monetary policy surprises in Japan by high frequency identification
Fumitaka Nakamura, Nao Sudo, Yu Sugisaki
本研究は、日本における金融政策発表前後の短期金利の変動を用いて、金融政策のサプライズをどのように識別できるかを探求する。特に、2000年代および2010年代のデータを用いて、金利がゼロ下限に近い状況での分析を行うことが重要である。著者らは、高頻度識別(HFI)手法を用いて金融政策サプライズの指標を構築し、その特性を文書化する。具体的には、金融政策発表の30分前後における短期金利先物の変動が、発表前後以外の期間に比べて主要な金融変数との相関が高いことを見出した。また、識別されたショックに対するマクロ経済変数のインパルス応答は、従来の理論が予測する方向性と一致していることも確認された。これにより、金融政策の効果をより正確に評価する手法の有用性が示され、政策立案者にとっての示唆が得られる。特に、金融政策の透明性向上や、金利政策の効果的な運用に寄与する可能性がある。
Information effects of monetary policy
Yusuke Tanahara, Kento Tango, Yoshiyuki Nakazono
本研究は、日本における短期名目金利の実質的下限(ELB)下での中央銀行の金融政策に関する二つの発表が、マクロ経済および金融変数に与える影響を評価することを目的としています。具体的には、中央銀行の政策の引き締めに関するサプライズと、経済見通しに関する中央銀行の情報の二つのショックを特定し、それぞれの影響を分析しました。データは日本の経済指標を用い、対象期間は近年の中央銀行の発表に基づいています。推定戦略としては、経済変数の応答を評価するための計量経済モデルが用いられました。主な結果として、引き締めショックは金利を上昇させ、株価を下落させる一方、情報ショックは金利を上昇させつつインフレ率を引き上げることが明らかになりました。特に、引き締めショックはインフレ率を低下させる効果を持つことが確認されましたが、これらのショックは出力に変化をもたらさないため、経済への影響は限られていることが示唆されます。これにより、中央銀行の経済見通しに関する発表が金融政策の伝達メカニズムにおいて一定の役割を果たすことが確認されましたが、その影響の範囲は限定的であることが分かりました。
What caused the downward trend in Japan’s labor share?
Masahiro Higo
本研究は、日本における労働分配率の低下の原因を探ることを目的としています。この問題は、日本経済の構造変化や政策形成において重要な意味を持ちます。著者らは、日本の労働分配率を、国民経済計算と「産業別法人財務諸表統計」という二つの代表的な政府統計データを用いて推定しました。対象期間は1990年代以降であり、データのカバレッジや会計基準の違いを考慮して分析を行っています。結果として、日本全体および企業部門において、労働分配率が明確に低下していることが確認されました。特に、自営業者の所得(混合所得)や中小企業の経営者に対する給与・ボーナスの大幅な減少が、労働分配率の低下の主な要因であるとされています。この減少は、自営業者や中小企業の数の減少に起因しています。対照的に、従業員への給与やボーナスは、労働分配率の低下にほとんど寄与していません。これらの発見は、技術革新やグローバル化、非正規雇用の拡大が従業員の労働所得を減少させたという単純な見方が、日本経済には直接当てはまらないことを示唆しています。労働分配率の低下のメカニズムを理解するためには、自営業者や中小企業の数の減少の原因と影響を特定する必要があります。
Unconventional monetary policy and the bond market in Japan: A new Keynesian perspective
Parantap Basu, Kenji Wada
本研究は、日本の非伝統的金融政策である量的質的緩和(QQE)が債券市場に与えるマクロ経済的影響を分析することを目的としています。このテーマは、金融政策の効果を理解する上で重要であり、特に日本の経済における金利の低下や債券利回りの動向に関連しています。著者らは、中規模の動学的一般均衡(DSGE)モデルを用いて、商業銀行の流動性リスクに対する過剰準備の需要や中央銀行、商業銀行、政府間のリンクを考慮しました。対象期間は明記されていませんが、モデルは量的緩和ショックと利率の負のショックをシミュレーションし、実質GDPに対するQQEの乗数効果は1.94であることが示されました。この結果は、QQEの政策目標に沿った債券利回りの低下に大きく寄与しています。一方で、利率の引き下げは実体経済と金融セクターに類似の影響を与えるものの、その効果は二次的な重要性に留まることが示されました。このシミュレーション結果を踏まえ、著者らは日本の最近のイールドカーブコントロール政策について評価を行っています。