Impacts of COVID-19 on households in ASEAN countries: Medium-run impacts and their implications for human capital development
Peter J. Morgan, Trinh Q. Long, Kunhyui Kim
本研究は、COVID-19パンデミックがASEAN諸国の家庭に与える中期的な影響を明らかにし、これが人材育成に与える意義を探求することを目的としています。このテーマは、経済的な困難が家庭の教育や将来の人材育成にどのように影響するかを理解する上で重要です。著者らは、7カ国の家庭を対象に2回のインタビューを実施し、データを収集しました。分析には、家庭の収入層、世帯主の教育水準、世帯主の性別、職を失ったかどうか、ロックダウン地域に居住しているかなどの要因が考慮されています。主な結果として、低所得層や教育水準の低い世帯主を持つ家庭が支出の減少や経済的困難を経験しやすいことが示されました。また、政府からの支援金は、パンデミック前の収入に対して低所得層でより多く受け取られており、政府の支援が経済的困難の軽減に寄与することが明らかになりました。これらの結果は、経済政策の設計において、特に脆弱な家庭への支援の重要性を示唆しています。
The diminishing impact of exchange rates on China’s exports
Willem Thorbecke, Chen Chen, Nimesh Salike
本研究は、中国の輸出が為替レートの変動にどのように影響されているかを検討し、特に2008–2009年の世界金融危機以降の変化に焦点を当てています。このテーマは、保護主義が高まる中で、中国の貿易政策や国際経済関係において重要です。著者らは、1990年から2022年までの中国の輸出データを用い、時系列データとパネルデータを分析しました。推定戦略には、実効為替レートと二国間実効為替レートを考慮したモデルが用いられています。主な結果として、2008年以降、実効為替レートや二国間実効為替レートが中国の総輸出に与える影響がほとんどなくなったことが示されました。特に、金融危機前はほぼすべての輸出カテゴリーが為替レートに敏感であったのに対し、金融危機後は半数未満に減少しています。この結果は、中国や他国の政策担当者が中国の貿易に影響を与えたい場合、為替レート以外の手段を考慮する必要があることを示唆しています。
Did COVID-19 deteriorate mismatch in the Japanese labor market?
Yudai Higashi, Masaru Sasaki
本研究は、COVID-19パンデミックが日本の労働市場における求職者と求人の間の職業的ミスマッチをどのように悪化させたかを検討する。特に、職業の脆弱性や雇用形態(フルタイム対パートタイム)による労働市場のセグメンテーションが、パンデミック期間中のミスマッチの動態にどのように影響したかを分析する。著者らは、Şahin et al. (2014) によって開発された手法を用いて、職業ごとの脆弱性と雇用形態に基づくミスマッチ指数を推定した。結果として、パンデミックは感染リスクが高い職業やリモートワークが容易な職業において、フルタイムおよびパートタイムの労働者双方においてミスマッチを引き起こすことが明らかになった。さらに、リモートワークが特に難しい職業においては、フルタイム労働者のミスマッチが増加したことも示された。これらの結果は、労働市場のセグメンテーションや職業の脆弱性が、危機時における労働市場の適応能力に重要な影響を与えることを示唆している。
Medium-run effects of patient cost-sharing on the demand-side and supply-side of inpatient care: A natural experiment in Japan
Akihiro Yoshimura, Reo Takaku
本研究は、患者の自己負担が入院医療の需給に与える中期的な影響を明らかにすることを目的としている。特に、2003年のコインシュアランス率引き上げが入院利用に及ぼす効果を分析することは、医療費抑制における政策の有効性を評価する上で重要である。著者らは、日本の公立病院データを用いて、12年間にわたるデータを分析し、差分の差分法とイベントスタディを適用した。分析の結果、2003年の改革後数年で入院患者数が減少したが、4年後からは患者1日あたりの入院コストが増加し始めた。これは主に医療資源の増加によるものであり、最終的には入院患者数の初期的な減少にもかかわらず、中期的には総入院コストへの影響はほとんど見られなかった。これらの結果は、既存の研究が中期および長期における患者の自己負担のコスト抑制効果を過大評価している可能性があることを示唆している。
Decomposing the reversal effect: Exploring low-to-price and other indicators
Yasuhiro Iwanaga
本研究は、株式市場における逆転効果を評価するために、価格指標の中でも特に低価格に焦点を当てた分析を行っています。逆転効果は、投資家が過去の価格動向に基づいて投資判断を行う際に重要な役割を果たすため、その理解は投資戦略の構築において不可欠です。本研究では、日本の株式市場を対象に、価格指標として高価格対低価格、高価格対価格、低価格対価格、価格対低価格の4つを用いて、逆転効果の予測における有効性を検証しました。これにより、特に価格対低価格の指標が最も効果的であることが明らかになりました。逆に、高価格対価格の指標は、期待されたほどの効果を示さず、市場の状況や期間によって投資家が考慮すべき基準価格が異なる可能性を示唆しています。また、価格対低価格の戦略は高ボラティリティの期間においてその効果が顕著であり、市場の不確実性が高まる時期において有用な投資アプローチとなる可能性があります。
Robots, ICT and aging: How do advanced technologies interact with aging
Hongyan Lu
本研究は、先進技術の導入が人口高齢化の生産性への影響をどのように変えるかを探求しています。特に、2008年から2020年までの12のOECD諸国における年齢・スキル別の労働者グループとICTおよび産業用ロボットという技術資本との相互作用を分析しています。データは産業レベルで収集されており、推定戦略には相互作用効果を考慮したモデルが用いられています。主な結果として、ICTの強度が高い産業では、低スキルの高齢労働者の相対的な労働生産性が向上する一方で、ロボットは高スキルの高齢労働者との補完性を示すことが明らかになりました。また、ICTとロボットを同時に導入することで、年齢・スキルグループ間の相対的な生産性差が縮小し、特に同じ年齢層内でのスキルレベルの異なる労働者間のギャップが狭まることが示されています。しかし、これらの効果は国や産業によって大きく異なることも指摘されています。高齢化が進みロボット利用が広がる国では、技術資本と労働の相互作用が顕著に異なることが観察され、資本集約型産業においてはロボットが労働者との強い補完性を示す一方で、労働集約型産業ではICTが高齢労働者に対して補完的な効果を持つことが確認されました。
Invoicing currency and exchange rate pass-through in Japanese imports: A panel VAR analysis
Taiyo Yoshimi, Uraku Yoshimoto, Takatoshi Ito ほか
本研究は、日本の輸入価格に対する為替レートパススルー(ERPT)の影響を、請求通貨の選択がどのように作用するかに焦点を当てて分析しています。この研究は、2014年から2020年までの日本の詳細な税関データを用いており、パネルVARモデルを採用しています。著者らは、輸出者の通貨で請求された商品のERPT弾力性が、円で請求された商品よりも高いことを発見しました。具体的には、輸出者通貨で請求された商品のERPT弾力性は0.75であったのに対し、円請求商品のERPT弾力性は0.19でした。また、中国とタイからの輸入においても同様の傾向が確認されました。さらに、円または輸出者の通貨以外の第三国通貨で請求された商品のERPT弾力性には有意な差が見られませんでした。加えて、円高局面におけるERPTは円安局面よりも高い非対称的なパススルーが観察され、これは外国の輸出者が市場シェアを維持するために価格調整を強化するためと解釈されます。
Do class closures affect students’ achievements? Heterogeneous effects of students’ socioeconomic backgrounds
Masato Oikawa, Ryuichi Tanaka, Shun-ichiro Bessho ほか
本研究は、クラス閉鎖が小中学生の学業成績に与える影響を、特に家庭の社会経済的背景に関連する異質な効果に焦点を当てて検討します。この研究は、東京都心部のある日本の都市における行政データを用いて、インフルエンザ流行によるクラス閉鎖が学生の言語および数学のテストスコアに与える影響を分析しました。結果として、経済的に不利な学生の数学のテストスコアに対する悪影響が確認され、その影響の大きさは科目、学年、性別、閉鎖のタイミング、そして学生の過去の学業成績によって異なることが明らかになりました。特に、経済的に不利な家庭の男子学生はクラス閉鎖に対してより敏感であり、過去の学業成績が低い学生はより深刻な悪影響を受けることが示されました。これらの悪影響は、学校内の指導時間の減少だけでなく、学習能力を低下させる可能性のある行動の変化によっても引き起こされると考えられます。また、高品質の教師が経済的に不利な学生に対するクラス閉鎖の悪影響を軽減できることも示されています。これらの結果は、学生の学習環境を保護するための公的プログラムの重要性を強調しています。
The slope of the Phillips curve for service prices in Japan: Regional panel data approach
Yui Kishaba, Tatsushi Okuda
本研究は、日本におけるサービス価格のフィリップス曲線の傾きを推定することを目的としている。この研究は、インフレ期待がインフレに与える影響を考慮するために、インフレ期待の代理変数を用いるのではなく、時間固定効果を導入する点で重要である。データは、日本の都道府県レベルのパネルデータを用い、対象期間は2000年代以降である。著者らは、フィリップス曲線の傾きが全体として半減し、さらなる減少が見られることを示している。具体的には、2000年代以降、特に日本銀行がゼロ金利制約に直面し、非伝統的な金融政策を実施した時期において、フィリップス曲線の傾きが顕著に低下したことが確認された。この結果は、金融政策の効果に関する理解を深めるとともに、インフレ期待の管理が今後の政策において重要であることを示唆している。
Against the wind or with it? The intraday and daily dynamics of yen interventions
Opale Guyot, Heather A. Montgomery
本研究は、日本の為替政策担当者の反応関数を、JPY/USD為替レートの動き、ボラティリティ、貿易量に基づくコスト・ベネフィットの最適化としてモデル化し、2008年から2024年までの日本の為替介入のタイミングと動機を探究します。この研究では、日次データと高頻度の15分データを用いています。具体的には、日次分析においては、政策担当者は主に長期的な為替レート水準をターゲットとしており、日次ボラティリティは重要な役割を果たしていないことが示されました。一方、インターデイ分析では、ボラティリティと貿易量の増加に応じて介入する可能性が高く、短期的な市場トレンドを強化する傾向があることが明らかになりました。これらの結果は、介入戦略の複雑さを浮き彫りにし、異なる時間的視点における意思決定アプローチの違いを強調しています。
Pension reform for an aging Japan: Welfare and demographic dynamics
Akira Okamoto
本研究は、日本における年金受給開始年齢の引き上げが個人の福祉や将来の人口動態に与える影響を探ることを目的としています。日本は他の先進国に比べて平均寿命が長い一方で、年金受給開始年齢は65歳に設定されています。この問題は高齢化社会において重要であり、持続可能な年金制度の確立に寄与する可能性があります。本研究では、内生的な出生率を考慮した拡張ライフサイクル一般均衡モデルを用いてシミュレーション分析を行っています。対象期間は明示されていませんが、モデルに基づく推定結果が示されています。シミュレーションの結果、年金受給開始年齢を68歳または70歳に引き上げることで、1人当たりの福祉が増加することが分かりました。特に、65歳以上の高齢者の雇用率が高まるほど、1人当たりの福祉と将来の人口水準が向上することが示されています。一方で、現在の雇用率52%を維持すると、長期的には人口が減少する可能性があることも指摘されています。これらの結果は、高齢者の雇用率を向上させることの重要性を示し、年金受給開始年齢の引き上げと併せて政策的な対応が求められることを示唆しています。
Labor market outcomes for doctoral graduates in Japan: Evidence from a large statistical survey
Masayuki Morikawa
本研究は、日本における博士号取得者の労働市場の成果を明らかにすることを目的としている。特に、日本の研究能力の低下が懸念される中、博士人材を支援する政策が議論されていることから、その重要性が増している。著者らは2022年の雇用状態調査のマイクロデータを用い、博士号取得者と修士号取得者の雇用状況を比較した。推定戦略としては、詳細な産業や職業を制御した上での分析を行った。分析の結果、まず博士号取得者の雇用率は修士号取得者よりも高く、特に女性においてその差が顕著であることが示された。次に、博士号取得者の平均給与は修士号取得者よりも40%高く、低賃金労働者の割合は博士号取得者の方が少ないことが確認された。さらに、産業や職業を制御した場合、博士号取得者と修士号取得者の賃金差は約10%に縮小し、博士号取得者が高賃金の職業を選ぶ傾向があることを示唆している。最後に、博士号取得者の生涯収入の割引現在価値は、男性で17%、女性で36%高いと推定され、博士教育への投資の内部収益率は男女ともに約10%と見積もられた。これらの結果は、博士号取得者の労働市場における優位性を示し、政策形成における重要な指針となる。